どうぞお座り下さい。すぐに飲み物を持って参りましょう。
…え?お代ですか?
いえいえ、私は趣味でこの仕事をやっている様なものですから。お金は頂きませんよ。
お待たせ致しました。あなたのお口に合えば良いのですが。
ところで…あなたはこれからどちらへ?
あぁ、別に言いたくないのでしたら構いませんよ。
私も若い頃は無茶をして、あちこち旅をして回ったものです。
今思えば、随分馬鹿な真似も致しました。一歩間違えれば、命を落としかねない様な真似も致しました。
そして…そんな私を見守っていてくれた人が大勢おりました。
私が今こうして休息の場を提供させて頂いているのも、一種の恩返しの様なものなのですよ。
あの頃の私の様な旅人・冒険者達に、
あの頃のあの人達の様に力を貸してあげられる事が出来れば…と。
そうして、次の世代次の世代へと
ああいう優しさが伝わっていくと良いな…等と考えまして。
あぁ、失礼を致しました。とんだ自分語りを。
…そこに置いてあるノートが気になりますか?
それは、何十人何百人というここを訪れた旅人達が記していったものです。
旅人の詩、冒険者の記録、訪れた人数と同じだけの人生の欠片。
良かったら読んでいって下さい。
何かがあなたの心に残れば…それを記していった方達も、きっと喜ばれるでしょう。
見た事も話した事も無い誰かが、自分の生きた証を心に刻んでくれるのですから。
もう随分長い事ここに置いてある物ですから、きっと当人ももう必要としていない物でしょう。
今頃はそれの必要の無い、立派な魔術師になっていらっしゃるかもしれませんね。
そちらも読んで頂いて構いませんよ。
そこに記されている事に一通り目を通して頂ければ、
冒険者達の記録を読む際に、彼等の使う魔法の内容が判りやすくなるでしょうしね。
また、いつでもいらして下さい。
休息を欲した時、話したい冒険譚が出来た時、旅人達の記録を読みたくなった時…
私はここで、いつでもお待ちしております。