〜もしもメモ3の主人公が詩織の弟だったなら<そして伝説へ…>〜


悪夢のダブルデートから一週間が過ぎた。

朝日奈さんの誘いはその後も執拗に続き
彼女と共にしたデートの数は今週だけで二桁を数える。

二桁?

我ながら唖然としてしまうが、フリーターを天職にしている朝日奈さんにとって
一日の時間の区切りなど全く意味がないものなのだ。

気が向いたら僕を呼び出す。
一日に二度三度は当たり前。
ま、断らない僕も悪いんだけどね。

とにもかくにも僕は連日のデートに疲れきり…
そしてその恨みは当然ながらこの事態を仕組んだ我が姉に向けられる事になる。

(準備は万端だ…)

僕は密かにほくそえんだ。
既にある”人物”の協力も得ている。
後はただ姉さんへの直接行動あるのみ。
その時は既に目前にまで迫っていた。

***

「あ〜あ…退屈ねえ…」

僕の部屋に響く投げやりな声。
もちろん言わずと知れた僕の姉…元きらめき高校のアイドル・藤崎詩織の嘆きの声だ。
自分の弟の気持ちなど全く意識のほかで目の前のテーブルに頬杖をつき、喉の奥までさらけ出して大きなあくびをしている。

お…

その瞬間僕はゴクリ、と生唾を飲んだ。
白を通り越してピンクパールとも見紛う荘厳な歯並びの向こうに見える神秘な物体。
二股に分かれたそいつは外気に怯えるように震え、紅く染まった粘膜をひくつかせている。
17年一緒に暮らしてきて初めて見る姉貴の秘密の部分…
その色っぽすぎる艶めかしい物体を目の当たりにし、僕は思わず我を忘れた。

「姉さん…咽喉チ○コ、二つもあるぞ」
「ぶふっ…!!」

瞬間、吹き出した姉貴の唾をモロに浴びてしまった。

「ぶはっ…き、きったねぇ〜っ!」
「げほ…」

狼狽する僕と苦しそうに咽ぶ姉。
僕は手元にあったティッシュの箱を引ったくり、顔を拭う。
いかに姉貴が美人だろうと唾は唾だ…まともに浴びて気持ち良かろう筈がない。

「レ、レディの口の中を覗き込むなんて失礼よ!」

僕が抗議の声をあげようとしたらそれより先に気を取り直した姉さんが凄い剣幕で食って掛かってきた。
顔が真っ赤なのは気管支を詰まらせた苦しさ故か、それとも怒りのせいなのか。
いずれにしても、その凄まじい形相に僕は反射的に頭を下げる。 

「ご…ごめん」
「いくら弟だってマナーぐらい守って欲しいわ!」

ぷん…と頬を膨らませた。
そんなら人前で大あくびなんてするなよな、とこっちとしては言いたかったがグッと我慢した。
姉貴に面と向かって逆らってもどうせロクなことにはならない。
それは百も承知だし、それに今日は…

(ここは謝っておいた方がいい)

冷静な判断で僕は一転して低姿勢を装う。

「本当にごめん。うっかりしてた」
「まあいいわ。これから気をつけなさい」

流石に”咽喉チン○”で怒鳴り続けるのも大人気ないと考えたのだろう。
姉貴もまた最後の一睨みを僕に与え、すかさず澄ました表情を取り繕う。
僕はぐしょ濡れになったティッシュを摘み上げ、姉の目に触れぬよう、そっと屑篭に放り込んだ。

「それにしても姉さんの咽喉○ンコが二股に分かれていたとは…」
「まだ言ってるの…。あれは”口蓋垂”ってのが正しい名前なのよ」
「…こうがいすい?」
「大体あなただってどうなの? 自分のなんか見たことないんでしょう?」
「…うん」
「姉弟なんだから、あなたの咽喉チン…ごほん。口蓋垂だって二つに分かれてるかも」

言われて僕も考え込んだ。
小さい時は女の子と間違われたくらいのこの僕だ。
幼稚園の学芸会で姉貴から借りたヘアバンドを装着し”ヒロイン”を演じきった逸話は今も語り草になっている。

(そうだよな…。男と女の違いを除けば、僕と姉さんってほとんど一緒なんだよな。おそらくこれは遺伝的なもの…)

だとすれば僕の咽喉チ○コだって…。
妙に納得してしまい、僕は黙りこんだ。
姉さんとしてみれば反論してこない僕を逆に不気味に感じたのだろう。
自分から話題を変えてきた。 

「それよりホント退屈だわ」
「姉さんは専業主婦だからな。ヒマが多すぎるんだよ」
「学生時代が懐かしいわ。クラブもあったし勉強だって気を抜けなかったし…」
「優等生だったもんな、姉さんは」
「普通にやってただけよ」
「その”普通に”ってのが中々出来ないんだよ」
「そうかしら?」

姉さんは、ちょっと小首を傾げた。
肩から滑り落ちた数本の髪をなであげ、僕に微笑みかける。

(…色っぽい)

僕は再び喉を鳴らした。
我が姉ながらときおり見せる彼女の女の表情には内心、穏やかならざるものを感じずにはいられない。
ましてや、あの偉大な咽喉チ○コを覗き見た直後では…。

「何、照れてるのよ」

僕の心を見透かすように、姉さんはクスリと笑った。

「や〜ね。思春期の男の子丸出し、って感じ」
「しゃあないだろ。実際、思春期なんだから」
「開き直ってるわね。どう? こんな美人の姉さんで嬉しいでしょ?」

軽くシナを作って流し目を送る。
うん…と思わず引き込まれそうになって僕は慌てて目をそらした。 

「全然。どっちかって言うと迷惑だな」
「迷惑?」
「姉貴が美人だって僕には何の得もありゃしない」
「…」
「物心ついたときから理想的な女の子が身近にいて…そのくせ、その子とは絶対恋人になれないんだぜ。こんなの一種の拷問だよ」
「…」
「しかも、やっと嫁に行ったと思ったら隣の家だし」
「それは仕方ないよ」
「ヒマさえあれば僕の部屋へやってくるし」
「元々ここは私の部屋じゃない」
「そうさ…。家中で一番日当たりのいい部屋を独占してたんだもんな」
「…」
「その間、僕は西日の当たる部屋で汗まみれになってたんだぜ」

僕は大仰にため息をついた。
今更こんなことを姉さんに言っても仕方がないが…この藤崎家で僕は明らかに冷遇されている。
そのせいか僕の家のことを良く知らない人たちの間では「一人娘が嫁に行った」と噂されているらしい。
後継ぎの僕がちゃんといるってのにだ。

「なんとなく僕って、姉さんの引き立て役なんだよな」
「…それは…考えすぎよ」
「どうだか」

僕はぷいっ…と、そっぽを向いた。
そして姉貴をそれとなく観察する。

(ふむ…どうやら大分堪えてるようだな)

半分本気で拗ねたのが功を奏したらしい。

(これでいい…)

僕は心の中でなんども頷いた。
怒らせてしまっては何にもならないが、少しは引け目を感じてもらわないと。

ふん…

なんとなく居心地悪そうな風情で下を向いた姉さんを見下しつつ
僕は、いよいよ本題を切り出すことにした。

「ねえ…姉さん」
「え」
「実はお願いがあるんだけど…」
「何よ。あらたまって」
「姉さんでなきゃ出来ないお願いなんだ」
「だから何だってのよ」

ほんの少し口を尖らして姉さんは言った。
彼女の苦手はいくつかあるが、廻りくどい言い方が一番勘に触るのだ。

「僕が今年の文化祭実行委員になってるの、知ってるよね?」
「知ってるわ」
「実はその文化祭のことなんだけど…」

僕はコホン、と一つ咳払いした。

「目玉はなんと言っても”バンドコンテスト”だよね」
「そうね…。私達の時もあれが一番盛り上がったわ」
「あの時はレベルが凄かったらしいね。”彩”とか、今でも語り草になってるよ」
「”彩”は別格だけど…総体的にレベルは高かったわね」
「ところが今年は、さっぱりでさ…。参加する連中すらほとんどいないんだ」
「ふうん」
「担当の僕もほとほと困っちゃってさ…。何しろスティック握って三週間…とかそんな連中ばっかりじゃせっかくの伝統に泥を塗っちゃうからな」
「一応は参加することに意義があるわけでしょう」
「建前はね。でも文化祭と銘打つ以上は、小学校の学芸会みたいな訳にはいかないよ」
「じゃ、どうするのよ」

姉さんが僕の目を覗き込んだ。
応じるように僕も姉さんの目を見詰め、そしてさりげなく言う。

「要は目玉がありさえすればいいんだ。他がいくらへたくそでも聞かせる歌い手が一人いればいい」
「…」
「本当はプロを呼ぼうか、と思ったんだけど…それは無理だった」
「先生がOK出さないでしょ。大学じゃないんだから」
「だから素人。それも我が高のOBなら文句なしだ」
「…」

ここまで聞いて、姉さんの顔色がさっと変わった。
僕が何を言おうとしてるのか察したようだ。

「ちょ、ちょっと待って! まさか、あなた…」
「元きらめき高校のアイドル藤崎詩織…復活のラストステージ。燃えるよ、こりゃ」
「勝手に決めないでよ! アイドルたって、私は歌手じゃないんだから!」
「歌は結構上手いじゃないか」
「でも人前で歌ったことなんて一度もないわ!」
「慣れりゃ一緒だよ」

僕は冷たく言い捨て、窓の外へ目をやった。
姉貴の狼狽を背中で感じ、受け流すようにわざと低い声で呟く。

「いい部屋だよなあ、ここ。まだ残暑が厳しいってのに、ほら…涼しい風が吹き込んでくる」
「…」
「こんな部屋で、ずっと過ごしてきたんだよな、姉貴は」
「…」
「成績も良くなるわけだぜ。弟の僕が物置みたいな部屋に押し込められていたって言うのに」
「…なんか、もの凄い嫌味ね」
「大学もトップで合格して…卒業したら即結婚。あとは三食昼寝付きでヒマになると実家の可哀想な弟をなぶりにくる」
「…」
「ああ。僕も女に生まれたかったよ」

僕はわざとらしく大きなため息をついた。
姉さんは何か言いたげに少し口を開き…しかしすぐ閉じた。

(良し)

俯き加減で視線を手元に落としている姉さんを凝視し、僕は勝利を確信する。
なまじ頭がいいだけに姉貴は情に極端に弱い。
押しどころさえ間違えなければ説得するのは実に簡単。
パーフェクトレディ・藤崎詩織の唯一の泣き所と言っていいだろう。

(義兄さんもそれで成功したんだよな…。マラソンやって学園のアイドルが手に入るんなら、日本中の男が陸上選手になっちまうぜ)

思わずこぼれそうになる笑いを必死に堪え、僕は言った。

「やってくれるよね? 姉さん」
「…」

無言のまま俯いている姉貴の姿。
髪に隠れて顔の表情までは判らないが…
しかし顎の先がごく微かにコクリ、と揺れたのを僕の目は見逃さなかった。

***

そして文化祭の当日。
予定された催し物も順調に消化され、後はフィナーレを飾るバンドコンテストのみ。
各クラスの人員も自分達の企画を放り出し、校庭へと詰め掛けている。
そんな会場の片隅で… 

「つまんねえ演奏だな」

憮然とした表情で男が言った。
ちょっと斜に構えた風体で定職に付いているとはとても見えない。
正体は不明だが…
しかしその落ち着き具合は、彼がこの地に「暮らした」ことがあるという事実を微かに感じさせた。
彼は銀のリストバンドをさり気なく誇示しつつ隣の彼女に向かって吐き捨てるように言った。

「とっとと帰ろうぜ。ここのバンドコンテストも地に堕ちたもんだ」
「ちょっと待ってよ…。へえ…こりゃ驚き…」
「なんだ?」
「プログラムの番外に”きらめき高校のアイドル”が出るらしいよ」
「へ…?」
「間違いないわ。藤崎詩織って書いてあるもの」
「ま、マジかよ」

男は慌てて彼女の手のうちにあるパンフレットを覗き込んだ。
校庭に設置された野外ステージの周囲はシラケきった雰囲気に包まれている。
誰もがあくびを噛み殺しつつ…
しかし決して誰一人席を立とうとしない。
その理由がこれだったのか…と、彼はようやく思い当たった。

「へえ…。藤崎が出るんなら”入場料”も決して高くねえな」
「なっつかしいな。彼女とは、大分前に同窓会で会ったっきり」
「俺なんか卒業式以来見てねえぜ」
「みんな知ってたんだね。去年よりずっと観客が多いもの」
「確かにな。…バンドなんか縁のなさそうなハゲ親父までいらあ」
「スケベ心丸出しだね。キャハハ…」

無遠慮な二人の笑いが虚空に吸い込まれていく。
しどろもどろになりながらも続けられているステージ上の演奏など誰も聞いちゃいない。
校庭を埋め尽くした観客はただひたすらその時を…
目当てのヒロインの姿を待ち望んでいる。 

***

「有料コンサート?」

姉さんが狐につままれたような顔をした。

「そんなの私、聞いてないよ」
「ああ、姉さんは気にしなくていいよ。今回だけだから」
「…」

今回だけ…と聞いて姉さんはますます心配になったようだった。
手にしたステージ衣装をじろじろ眺め、ほんの少し眉をひそめる。

「ちょっと派手じゃない…これ」
「そうかなあ。もっと派手なのもあったぜ。…貸衣装屋に」

本当はサンプルの中で最も露出が多く、刺激的な一品を選んだのだがそんなことを口走るほど僕も馬鹿じゃない。
ぐずぐず言ってる姉を更衣室に追いやり、僕自身はそっとステージ裏を抜け出した。
プログラムも終盤に差し掛かり、ダレた観客も次第に乗ってきつつあるようだ。
もちろんその彼らの期待を一心に背負っているのが我が愛しの姉…
元きらめき高校のアイドル・藤崎詩織であることは言うまでもあるまい。

(これでバンドコンテストは大成功疑いなしだ。仕返しとしちゃ大分ヌルいかもしれないが…
僕の校内での株は間違いなく上がる。
何しろ姉貴の”伝説”は承知していても顔すら知らない連中ばかりだからな)

五年も前にこの学校を去った伝説の少女。
彼女の復活は即、藤崎ブランドの復活に通じその弟である僕の立場も格段にアップする。
僕の目論見の全てはそこにあった。
姉貴が僕を”利用”しようとした以上、僕だって…。

「上手く行ってるな」

超満員に膨れ上がった場内を満足そうに見回していた僕の背後からそっと声が忍び寄ってきた。
僕は一瞬ギクリとし、その声が聞き覚えのある親しいものであることにホッと息を漏らす。 

「ああ。上首尾だよ」
「”姉貴”はどうした? もうすぐ出番だぞ」
「今更衣室で着替えてる」
「じゃ、問題はないな」

背後の男がクスリ…と笑った。

「しっかし入ったもんだ…。町内中の男がみんな集まったんじゃないか?」
「姉さんが出場するんだ。当然だよ」
「腐っても藤崎詩織か。既に旦那がいるってのにな」
「そうだよね…立派な旦那がいるんだよね。…ね、義兄さん」

僕はくるりと振り返って後ろの男性を悪戯っぽく見た。
茫洋とした表情。
天下一の美少女を我が妻に迎え、この世の幸せを一身に受けている男とはちょっと見えない。
ま、姉さんにとってそうであるように、この僕にとっても彼は世代が違うとは言え幼馴染だから…
どうしても評価が辛くなってしまうのだろう。

「少しは妬いてるんじゃない? 自分の奥さん目当てにこんなに男が集まると」
「別に…。詩織がモテるのは今日に始まったことじゃない」
「そんなに割り切れるもんかなあ。でもそれでなきゃ、こんな企画を考え出さないよね」
「半分はお前が考えたんだぞ。詩織のやつがあんまり退屈そうにしてるから少し刺激を与えてやれ、って」
「ホント困るんだよ。姉さん…退屈するとすぐ僕にちょっかい掛けてくるんだから」
「それだけ君が可愛いんだろ」

ハハハ…
と義兄さんは声をあげて笑った。

「ま、もう少しの辛抱さ。あいつも自分の子供が出来たら君になんか構っていられなくなるよ」
「え…」

…子供…?

義兄さんの意外な言葉に僕は思わず口篭もった。
その視線の先で彼は照れくさそうに鼻をこすっている。

「まだ誰にも言うなよ。あいつ本人だって自覚していないんだから」
「じゃ義兄さんはどうやって?」
「ウチの母さんがそれとなく耳打ちしてくれたんだ。歳の功ってやつでなんとなく感づいたらしい」
「…」
「明日には病院に行くよう薦めるそうだ」

その言葉を聞き、僕は彼の真意にようやく気付いた。
僕の”復讐計画”に義兄さんがあっさり乗ってきたわけ。
そしてそれを急遽有料コンサートに仕立て、全額を福祉事業団に寄付しようとしたわけ。
それは決して姉さんに恥をかかせようなどと考えたのではなく…
義兄さんは学園のアイドルたる姉さんの有終の美をこのコンサートで飾り…
そして新たに一人の母となる彼女と共に生きて行く門出にしようと心に決めたに違いない。

(とてもそこまで思いつかなかった。僕はただ義兄さんも面白がってるもんだとばっかり…)

考えてみれば思い当たる節はいくつかある。
OB連への根回しは義兄さんが積極的にやっていた。
僕の単なる仕返し構想ならそんな必要は全くない。
おそらくそれは―――
姉さんのかつての崇拝者を一人でも多く集め、
彼女にとって最高のステージにするため…。

わぁ…っ…!!

野外ステージの周りに一際高らかな歓声が巻き起こった。
僕はハッと顔をあげ、義兄さんの顔を見る。

「出てきたな…。ついに」
「…」
「見ろよ。ちょっと照れてるけど…いい顔してるぜ」
「…」
「やっぱりあいつには華がある。人をひきつける不思議な魅力がある。僕はそう言うあいつに惚れたんだ」
「…」
「さ、行こう。”藤崎詩織”のまさにラストステージだ。心から楽しませてもらおうじゃないか」

そう言い捨て、義兄さんはさっさと歩き出した。
僕はその後を付いていこうかと少し迷い…しかし結局その場を動かなかった。
理由など別に有りはしない。
ただ足が言うことを聞かなかっただけだ。
姉さんが他人の奥さんになり…
そしてついに彼女自身の子を宿し…
僕とは全く無縁の生活の中へ溶け込んでいく。
その現実が…
僕の足を竦ませてしまったのかもしれない。

(さよなら。姉さん)

霞む瞼の奥に何か熱いものを感じながら、僕は心の内で別れを告げた。
この世で最も愛しい肉親に惜別の思いの全てを込める。

盛り上がる一方の会場に背を向けて僕は歩き出した。
もはや興奮のるつぼと化しつつあるバンドコンテスト。
そのちょうど対極に位置する校庭のはずれ…そこにあるものを目指して歩き続ける。
かつて彼らは僕と同じようにそこを目指した。
決して平坦な道ではなかったろう。
三年という歳月がそれを雄弁に物語っている。
しかし――― 

彼らはそこにたどり着いた。
そして僕もまたいつの日か、その「樹」の下に立つに違いない。
それが僕達の定め…
「メモリアル」の元に生きる僕達のただ一つの願いなのだから。

〜もしもメモ3の主人公が詩織の弟だったなら・終〜