〜もしもメモ3の主人公が詩織の弟だったなら<ときめきのダブルデート>〜


「ダブルデート?」

僕は一瞬きょとんとした。
今日も今日とて僕の部屋へ遊びに来ていた姉さん(元きらめき高校のアイドル・藤崎詩織)が急にマジな顔をしたかと思ったら…

「そう、ダブルデート。 今度の日曜日、空いてる?」
「予定はないけど…」
「じゃ決まりね」
「ちょ、ちょっと待ってよ。デートってまさか姉さんと…?」
「当たり前じゃない」
「…」
「何よ。その迷惑そうな顔は」
「い、いや、迷惑ってわけじゃないけど…」
「仮にも”学園のアイドル”とまで呼ばれてた美少女とデートできるのよ。もっと感激して欲しいわ」
「結婚してるくせに美少女もクソも…」
「なんか言った?」

姉さんの目がギラリ…と光った。
僕は背筋に寒気を感じ、慌てて口をつぐむ。

「いえなんでもありません」
「じゃ、決定ね。 もう一人の女の子は私が連れてくるから…あなたは可愛い男の子をお願いね」
「可愛い男の子ねえ…。 義兄さんじゃダメなの?」
「今更あの人とデートしたって仕方がないわ。高校三年間でイヤになるくらいやったから」
「ふん」

まあ、そういうものかも知れない。
キス一つせずによくもまあ…と感心するくらい、彼らはしょっちゅうデートを重ねてた。

(なるほど、それで久々に違う男とデートしてみたくなったってわけか。意外と姉貴も浮気性だな)

などと穿った見方をしつつ僕は姉さんを部屋から送り出した。
デートの行く先はお決まりの遊園地らしい。
”ナイトパレードが楽しみ”とか言ってたから結構遅くまで居座るつもりなんだろう。

「ま、姉さんなんかどうでもいいや。それより姉さんが連れてくる女の子って一体どんな女の子だろう」

次第に膨れ上がる期待に胸を躍らせつつ僕はベッドに寝そべった。
偉大すぎる姉を持つとそれなりに苦労するのだがこういう場合は別だ。
”藤崎詩織の弟”というだけで女の子達の信用度が格段に違う。

「姉さんが連れてくるんなら相当の美少女に違いないぞ…」

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そしてデートの当日。
僕は姉さんが連れてきた女の子を一目見て口をあんぐりあけた。
こ、この人は…

「やっほうぅ! 元気してたあ!?」

この脳天に響くような明るい声。
忘れようったって忘れられるもんか。

「ひっさしぶりだよねえ〜! 結構いい男になったじゃん??」
「お…おかげさまで…」
「あたしさぁ…あんたが中坊だったときから目を付けてたんだ。しおりんの弟なら、とびきりの美少年になるって!」
「…」
「だから今日は、しおりんに無理言ってデート組んでもらったの!…超ラッキ〜って感じかなっ!」

ハメられた…
僕は目の前で浮かれ騒ぐ女性の姿を眺めつつ、ふとめまいを感じた。

「さ、行こ行こ! 遊ぶとこなんだからどんどん遊ぼうよう!」
「あ、あの”朝日奈さん”ちょっと待って…」
「なになに? しおりんなんて放っておきゃいいじゃん!」

そう言い放ち、朝日奈さんは僕の手を容赦なく引っ張りつづける。
僕は救いを求めんと最愛の姉の姿を探し求めたが…

(あ…)

肝心の姉さんは素知らぬ顔で僕が連れてきた同級生とベンチで語り合っている。
もはや僕のことなど念頭にもないらしい。
僕は絶望のあまりに首をうなだれ…
そして朝日奈さんに導かれるまま歩き出した。
こうなったら既に逃げ場はない。
いや、逃げ場など始めからありはしなかったのだ。
僕は、この悲劇的な事態の全貌に気が付きつつあった。

『きらめき高校伝説のOB会』

別称「永遠のメモリアル」…
藤崎詩織を筆頭に、義兄さんを巡って青春の火花を散らした女達が結成した
史上最強のOB(OG)軍団である。
昨日の敵は今日の友。
彼女らの結束の固さ(及び執念深さ)は僕の理解を遥かに超えている。
なにしろ月イチで会報まで出しているんだから…。

(ところが姉さんはその会報を絶対僕には見せてくれなかった。”男の見るもんじゃないわ”とか言って。
おそらく身近な男性の情報を交換しあっていたに違いない)

僕はこの前17歳の誕生日を迎えた。
その途端のこのダブルデートの一件だ。
先月号の会報に紹介されていたのが誰だったのか…
押して知るべしであろう。

「最初はもちろんジェットコースターだよね! GOGO!」

(歳も考えずに)はしゃぎまわる朝日奈さんを力なく眺め
僕は虚ろな視線を彷徨わせる。
もしこの場を無事に切り抜けたとしても
次に待ち構えているだろう残り11人の襲撃をかわすことなど思いもよらない。

「終わった…。僕の人生」

眼前を覆いつつあるジェットコースターの巨大な影を我が墓標と見定めつつ…
僕は大きく一つため息をついた。