天使や人間との戦いは終盤を迎えようとしていた。
戦いの激しさは日を追って増していく。
しかし、それはこの戦いが終結に向けて動いているという何よりの証だった。

人間達との一戦が終わった後、ヴィディアは仲間全員の武器の状態をチェックするのが習慣だった。
彼女を優秀な戦士と見込んでのジェネラル・テンペストからの命令…と言うより依頼だ。
そのジェネラル本人は副官であるギルヴァイスと今後の計画を立てている。
いつもの事とは言え、幼馴染3人組から1人外されてしまった様な寂しさがヴィディアを襲う。
ジェネラルとの打ち合わせが終わったギルヴァイスに思わずぼやいてしまったのも、そんな気持ちからだった。

 

「ギルはズルいわ」
「………はぁ?」

唐突なヴィディアの台詞に、ごく当然の様に疑問符を返すギルヴァイス。
ポカンとした幼馴染にヴィディアは更に続けた。

「ギルってば、ボーっとして見えるけど頭はいいし、ヘナチョコに見えるけど戦いもそれなりだし、人望あるし…
 『天は二物を与えず』なんて嘘っパチだわ」
「…そいつは、一応お褒め頂いてると受け取っていいんですかね?」

軽い返答をしつつも、ギルヴァイスの目は真剣にヴィディアを見ていた。
らしくない…とは言わない。昔からこいつは落ち込む時は落ち込む奴だ。復活も早いけど。
軽い溜息をつく彼に気付いているのかいないのか、ヴィディアはボソボソと話し続けていた。

「なのにあたしってば、武器振り回すしか能が無くて…作戦会議とか全然ガラじゃないし。
 あたしだけ、レイジの役に立ててないみたい。ギルはいっつもレイジの隣に居るのに」

ああ、本題はそこか。
実にシンプルなヴィディアの悩みに、ギルヴァイスは頭を掻きながら言葉を返した。

「要するに、嫉妬か」

パッと頬を赤らめるヴィディアに苦笑が漏れる。
レイジがヴィディアに告白して2人が両想いになったのは、つい先日の話だった気がするのだが。
隣で自信無げに俯くヴィディアの頭を、ギルヴァイスは拳で軽く小突いた。

「あのなぁ…誰だって向き不向きっつーモンがあるだろ?
 お前が俺みたいに頭使うのが苦手なのと同じ様に、俺はお前みたいに馬鹿力使うのは苦手だ。
 だから、レイジの隣にはどちらか片方だけじゃなく両方がついてるんだろ?」
「でも…実際に隣で戦ったり相談したりは全部ギルがやってるもん。あたしだけ…あたしだけ、仲間外れみたいじゃない」

こいつは本格的に判っていない。
しかし、本格的に気に病んでいるのも事実みたいだ。何せ、いつもの様に自分の発言に拳や蹴りでつっこみを入れてこない。
どうやら真面目に立ち直らせる必要がある様だ。

ギルヴァイスはいつも彼女に向ける軽い笑いではなく、真剣な笑顔で向き合った。

「お前にしか出来ない役目があるだろ?」
「あたしにしか…出来ない?」
「そ。復活して以来妙に悩み癖をつけたレイジの隣で『大丈夫、大丈夫』って笑ってる事さ。
 レイジは確かに俺の事頼りにしてくれてると思う。相談だって色々してくるさ。
 でもな。あいつを1番安心させてやれるのは、お前の笑った顔なんだよ」

今度はヴィディアがポカンとする番だった。
ギルヴァイスが自分にこんな風に笑って話をしてくるのは、いつ以来だろう。
軽口叩き合って、冗談を言い合って、でも心の底では信頼し合っていた幼馴染。
でもそれだけに、こんな真剣な話をし合うなんて何だか気恥ずかしくて。
お互いが歳頃になった頃から、こんな雰囲気は久しく味わっていなかった。

「もっと自分に自信持てよ。レイジはお前を選んだんだ。ジーナローズ様でもなく、他の誰でもなく、お前をな。
 お前がそんなんだと、レイジの女を見る目が無いって事を公開しながら歩いてるみたいじゃないか」
「ギル…」

一瞬、ギルヴァイスの顔に寂しさが過ぎった様に見えたのは、気のせいだろうか?
ギルヴァイスも自分と同じなのかもしれない。
ずっと3人一緒だった幼馴染が、ほんの少しだけ形を変える。
それに寂しさを感じているのは、ギルヴァイスも同じなのかもしれない。

 

そう言えば、前にも1度こんな気持ちを覚えた事があった。
まだ3人とも、ずっと子供だった頃の事だけれど。

『レイジとギルだけで、何内緒話してるのよぉ!あたしも混ぜてよ〜』
『お前は駄目だ。男と男の内緒話だからな』

 

あの時感じた、男女の間の壁。それはどうしようも無い寂しさになって、自分にのしかかってきたっけ。
でも今度は自分がギルヴァイスに同じ事をしているんだ。
自分とレイジが、ギルヴァイスとの間に築いてしまう男女の間の壁。
頭のいいギルヴァイスがそれに全く気付いていないはずは無い。ただそれを表に出していないだけなのだろう。
そう考えると、ひどく自分が子供の様に感じた。

「ありがと。…ごめんね、ギル」
「あ?何謝ってるんだ、お前」
「何でもいいから」

ヴィディアは数歩進んでギルヴァイスを振り返った。
優しくて、頼りになる、大切な幼馴染を。

「あたし、ギルの事も大好きよ。レイジにはちょっと劣るけどね」
「そりゃどーも。俺も暴力に訴えないご機嫌時のヴィディアさんは大好きだよ」

ずっと昔のままではいられない。
今のままの関係を続けたいと願うのは、傲慢な願いだろう。

 

それでもなお願うのは、
3人の笑顔がずっと近くにある事。


最初浮かんだのはレイジとヴィディアがくっついちゃって寂しくて「ヴィディアズルい」と思ってるギルのお話だったんですが(笑)、
ギルはそんなこと考えないかな〜、100歩譲って考えたとしても出さないよな〜と思ってヴィディア視点で作り直しました。
微妙にギル視点が入ってるのは、最初の構想時にギルが主役だったからかも。

男2人・女1人という性別である時点で様々なことに小さな壁を感じると思うんです。
話の中で書いた「男と男の内緒話」もそう。恋愛が絡んでくればそれもそう。
細かい事で言うなら、同性には言えても異性には言えない事もあるんじゃないでしょうか?いくら気心知れた連れでも。
自分が日常生活で時々感じていることなんですけどね(笑)

私としてはレイジとヴィディアのコンビもレイジとギルのコンビもギルとヴィディアのコンビも皆好きなのですが、
やっぱり3人で仲良くしている幼馴染トリオが根底で大好きな訳で。
話的にはヴィディアルートのはずなのですが、書きながらイメージしていたのはノーマルEDでした。

…それにしても、文章力欲しいなぁ(泣)