「…やっぱり、気が進まないなぁ…」

広々とした城内を歩きながら、ギルヴァイスは小さく溜息をついた。
この城の主の事を考えると少し気が重くなる。
仕事でもなければ、なるべく近付きたくない場所だった。
まして、彼の私室には。

…仕事なんだ、仕方無い。
さっさと渡すもの渡してすぐ帰ろう。

城の主に仕える若い娘に案内され、ギルヴァイスは扉の前までやってきた。
そそくさと下がっていく娘を見てまた溜息をつく。
しばらくそこに佇んでいたが、このままではいつまで経っても帰られないと観念して扉をノックする。
中からは明るい声で返事が返ってきた。

「失礼致します、ユーニ様」
「ギルヴァイス!」

部屋の主は、まだ少年としか形容しようのない外見の悪魔だ。少女とも思える程整った顔立ちをしている。
小柄な少年は部屋に入ってきたギルヴァイスを見るとパッと顔を明るくした。

…俺の顔を見て喜んでる訳じゃないと思うけど。

ユーニの嬉しそうな顔に内心冷や汗をかきつつ、ギルヴァイスは手にした書類を渡すべく彼の机に近付いた。
ユーニは目をキラキラさせながらギルヴァイスの一挙一動を追っている。
ユーニと目を合わせない様にと視線をズラせば、壁一面に飾られている羽が視界に入る。
白い羽の中にいくつか混じった黒い羽。ユーニが趣味で集めた物だ。

「……………」

恐怖や不安がグルグルと頭を巡る。
早く退散しよう。長居をしていると嫌な事が起こる気がする。
そう思って書類の説明をしようと机に目を向けるが、ユーニがいない。
嫌な予感がして、ギルヴァイスはゆっくり背後を振り返った。

「相変わらず綺麗な羽だね。いいな〜、欲しいな〜」

うっとりと羽を眺めるユーニに、ギルヴァイスの身体が固くなる。
ギルヴァイスの羽から顔に視線を動かしたユーニは、にっこり笑った。

「ね、ちょっともぐだけならいいでしょ?」
「だっ、駄目ですっ!」

ほら来た。
魔王復活の為の戦いの中で再会した頃からユーニはギルヴァイスの羽に執着していた。
「欲しい」と言われたのも1度や2度ではない。
1対1で一緒にいたら、いつか強引に羽をもがれてしまうと真剣に危機感を覚えたものだ。

だから気が進まなかったんだよ!

ギルヴァイスの内心の悲鳴が聞こえたはずは無いが、ユーニは意外にもあっさり羽から手を離した。
意外な行動にギルヴァイスの動きが止まる。

「やっぱり駄目かぁ〜、ケチ!」
「…ユーニ様?」
「魔王様もレイジも、強引に羽をもいだりしちゃ駄目って言うからさ。ギルヴァイスがいいよって言えばきっと怒られないと思うんだ」

ユーニはぷーっと頬を膨らませながらそう言った。
そう言えば、天使や人間との戦いが終わった時に魔王城でレイジとジーナローズ様からきつ〜く言われてたっけ。
あの時と同じ膨れっ面のユーニを見て、ギルヴァイスは思わず小さな笑いを浮かべた。
戦いの最中にはどんなに言われても聞き入れなかったけど…レイジと一緒に過ごす間に、ユーニ様も少し変わられたか?

「何笑ってんの?変なギルヴァイス」
「あぁ、申し訳ありません。ではユーニ様、書類の説明をさせて頂いてよろしいでしょうか?」
「面倒臭いなぁ…」

いやいやするユーニを机に座らせ、魔王ジーナローズとレイジから預かった書類を一通り説明していく。
ユーニが退屈そうに聞いているのを見て、ギルヴァイスはなるべく手短に説明を終わらせた。

「ではユーニ様、私はそろそろ…」
「あ、待ってギルヴァイス!君にお土産あげるよ!」
「…は?」

ユーニがくれる土産と聞いて最初に頭に浮かんだのは、壁一面に飾られている羽だった。
しかしユーニはごそごそと机の引き出しをいじっている。
じっと見つめているギルヴァイスに気付いたユーニが顔をあげた。

「もしかして、飾ってある羽が欲しいの?飾ってあるのはとっておきだから駄目だよ。
 あ、でも余ってる白い羽ならあげてもいいかなぁ…ギルヴァイスの背中に白い羽さしてみたら、似合うかなぁ?」
「あ、いえ、そういう訳では…っ!」
「あ、あったあった」

ユーニがニコニコしながら取り出したのは、薄い青色の鳥の羽だった。
美しい羽に見入っていたギルヴァイスだったが、一瞬怖い考えが頭をよぎる。

「この羽…もしかして…その、鳥から…」
「もいでないよ!城に遊びに来る鳥の抜けた羽を拾ったの!
 魔王様とレイジに天使や悪魔の羽をもいじゃ駄目だって言われたから、今は鳥の羽集めてるんだ」

胸を撫で下ろしたギルヴァイスにユーニはとことこと歩み寄り、ギルヴァイスがいつもつけている青いバンダナに羽をさした。
そしてご満悦といった感じでにっこり笑う。

「うん、やっぱりこの色が似合ってるね!その羽、ギルヴァイスにあげるよ」
「ありがとうございます、ユーニ様」
「その代わりね…ギルヴァイスにお願いがあるんだけど」

ユーニの子供らしい(というと御幣があるが)心遣いに感激していたギルヴァイスは「お願い」と聞いてまた顔を曇らせた。
その羽と引き換えに君の羽をくれなどと言い出したりしないだろうか…
嫌な予感に固まるギルヴァイスに、ユーニは笑顔で言った。

「仕事以外でも、時々遊びに来てよ。レイジと一緒にでもさ!2人とも羽綺麗だから、もっと沢山見たいんだ!
 もいだりしないから…ね?」


何か中途半端でごめんなさい (汗)

ジーナローズやレイジに言われたからと言って、はいそうですかと羽をもがなくなったりはしないと思いますが…
でもレイジ達とずっと一緒に過ごしてて、少しは変わらないかな〜等と期待も含めて書いてみました。
鳥の羽程度では満足しなさそうですが…満足したとしても、やっぱりもいじゃいそう(^^;;;

後、ギルが情けなくてごめんなさい(笑)